東京都心マンションは沸騰寸前である。住宅ジャーナリストの櫻井幸雄さんは、東京の都心部で3.3平方メートルあたり1000万円、100平方メートルで3億円の新築分譲マンションが登場する可能性が高いと予測する。値上がりした都心マンションがその後どうなるのか。
都心マンションは2020年東京オリンピックまで上がり続け、オリンピックの閉会とともに下がる、という声が多い。私自身、東京五輪招致が決まった2013年9月からそう言い続けてきた。しかし、今は別の思いにとらわれるようになった。「東京五輪の後も、都心の不動産価格は下がらないのではないか」と思い始めたのだ。
理由は、他の世界的大都市の動きにある。
東京は、パリ、ロンドン、ニューヨークに匹敵する大都市とされる。では、他の世界的大都市ではどんな動きが出ているのか。
パリとロンドンは以前から不動産の購入が困難な場所になっている。「買いたくても、売り物が出ない。住みたかったら賃貸を借りるしかない。その賃料は目の玉が飛び出るくらい高い」場所になっているのだ。
高い家賃を稼げるので、余計に所有者は手放さない。虎の子のような不動産をしっかり守っている状況だ。
これに対し、東京とニューヨークは不動産の売り物が出る場所だった。しかし、近年はニューヨークも状況が一変。売り物が出にくい状況になってしまった。
残るのは、東京の都心部。その都心部で不動産を盛んに買っている人の中には外国人が多く含まれる。外国人は、パリやロンドン、ニューヨークの事情をよく知っているので、「東京の都心部で土地やマンションを購入できるのは今だけ」と思っているかもしれない。つまり、一度手に入れたら、手放さない可能性が高いのだ。
なかでも、千代田・中央・港・新宿・渋谷といった超都心エリアは、高騰した後、高止まりするのではないか。私には、そう思えてならない。実際、15年10月現在、超都心エリアでは、土地の売り物が極端に減っている。これからの地価上昇を見越した土地オーナーが、簡単に手放さなくなっているのだ。
超都心の中には、住宅付置義務を設けている場所がある。オフィスビルを建設するときは、住宅も一緒に作りなさい、というのが住宅付置義務。住宅を作る分、容積率の緩和などを行い、従来より大きな建物を建設できるようになっている。都心部の人口減少に頭を悩ませた行政が考え出した、特例だ。
この制度を利用すれば、より大きな建物を建設できる。たとえば、オフィスだけなら10階建てまでしか建設が許されない場所で、オフィスの上に住宅をのせれば、15階建てまで建設できる、というような状況が生まれる。この場合の住宅は賃貸住宅でもよいので、賃貸オフィス+賃貸マンションのビルを建てれば、土地オーナーのもうけが大きくなる。
だから、土地を手放さず、賃貸で活用したほうがよい、と土地オーナーが考えるのは当然だろう。この付置義務も、分譲マンションが減る一因となる。
「今後、都心部で不動産の売り物が減る」と読めば、高騰した不動産価格にも「さほど高くない」という評価が生まれる。今、都心部のマンションが価格を上げながら即日完売を続けている背景には、そんな事情もありそうだ。
不動産はマネーゲームの対象になりやすい。そのマネーゲームは新たな局面に入っているのかもしれない。
毎日新聞抜粋 |
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