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都心の「狭小戸建て住宅」が、ここへきてバカ売れし始めたワケ

コロナ危機をきっかけにテレワークが普及したことから、郊外への転居を検討する人が増えているという。メディアでもそうした記事をよく見かけるが、足元では正反対の動きが顕著となっている。都心近くの狭小戸建て住宅が飛ぶように売れているのだ。メディアが配信する記事の少なくない割合が、事実(ファクト)ではなく読者の願望をベースに作成されるので、現実とはまったく逆の話になるケースがある。


 テレワークは働き方改革の一環としてその必要性が指摘されてきたが、日本社会の反応は否定的であり、まったくといってよいほどテレワークは普及していなかった。だが、コロナ危機によって状況は一変し、多くの企業がテレワークにシフトすることになった。自宅で仕事をする割合が高まれば、当然、消費者の関心は住宅に向かうことになる。

 日本の家は全般的に狭く、十分なワークスペースを確保できないケースが多い(これは政府の住宅政策の影響が大きい)。だが、テレワークを一時的な措置ではなく恒久的な制度に位置付ける企業も増えてきたことから、テレワークを前提に転居を検討する人が増えているという。

 メディアでは、郊外の広い家に転居する人が増えており、東京は空白地帯になるといったトーンの記事をよく見かけるが、本当にそうだろうか。いくらテレワークによって出社する回数が減るとはいえ、通勤をゼロにすることはできない。同じ価格帯で仕事用の部屋を1つ確保するためには、相当な遠距離になってしまうのが現実だ。出勤回数の絶対値は減るとはいえ、通勤1回あたりに電車に乗る時間は長くなってしまう。

 しかも、持ち家となると今だけの問題では済まなくなる。日本は長期的な景気低迷から年金財政が厳しい状況となっており、サラリーマンで定年後にリタイアできるのは、公務員や超優良企業の社員などごくわずかな人たちだけだ。たいていの人が、定年後も再雇用という形で同じ会社で仕事を続けるか、別な会社での就業を余儀なくされる。

 同じ会社に再雇用されるにしても、職場環境が同じとは限らない。引き続きテレワークができる立場であれば問題ないが、場合によってはグループ会社に転籍となり、派遣社員として現場に投入される可能性もある。転職であれば、当然、所在地はバラバラだ。

 こうした状況を考えると、都心から離れた場所に家を買ってしまうと、反対側のエリアにある職場に通うのは極めて難しくなる。日本社会はキャッシュレス対応などを見ても分かるように、基本的にデジタル化に対して否定的であり、ビジネス環境が一気にIT化される可能性は低い。高齢になってからの遠距離移動はつらいので、いくらテレワークが増えるといっても、遠くに転居するのはリスクが高いという判断にならざるを得ないだろう。

 加えて言うと、夫が正社員で妻が派遣社員という世帯は多いが、夫婦のどちらかがテレワークではない場合、そもそも遠くに転居するという選択肢自体があり得ない。コロナ危機をきっかけに田舎暮らしにシフトできるのは、家計の主たる稼ぎ手が、高齢になってもテレワークのみで十分な稼ぎを得られる高スキルな人たちに限られるはずだ。

マンションはもはや高嶺の花

 現実問題として転居を考えている人は、こうした状況をシビアに認識しており、不動産業界では、従来と同じ面積で部屋数の多い物件への引き合いが増加しているという。狭くてもよいので、何とか独立空間を確保しつつ、都心までの距離はできるだけ短い物件がよいわけだが、現実的な選択肢として、都心近くの狭小戸建て住宅に注目が集まっているのだ。

 本来なら都心から近めのマンションで部屋数が多い物件を望むところだろうが、首都圏に限って言うと、新築マンションはもはや普通のビジネスパーソンでは入手できないレベルにまで価格が上がってしまった。過去20年でマンション価格は1.5倍となっており、最近の新築マンションの平均販売価格は6000万円を超えている。

 コロナ危機でマンション価格が暴落すると期待する声もあったが、現実はそうなっていない。不動産経済研究所の調査によると6月における新築マンションの販売戸数は前年同月比では3割減だが、5月との比較では約3倍と急回復しており、現場は活況を呈している。平均販売価格は6389万円になっており、前年同月比で何と7%も上昇した。

 東京オリンピックのバブル崩壊やコロナ危機によって、今後、新築マンションの供給が減る可能性があるため、自粛解除をきっかけに、残された物件の争奪線になっている可能性が高い。

 だが、一般的なサラリーマンでこうしたマンションを買えるのは、夫婦がそれなりの年収で共働きしており、かつ親などから多額の頭金を援助してもらえる人たちに限られるだろう。

 そうなってくると、ごく普通のサラリーマンが何とか家を確保しようとする場合、どうしても割安な狭小戸建て住宅にならざるを得ない。東京を例に取れば、山手線の外側エリアで、土地面積が60~70㎡の物件でよければ、4000万円から5000万円で手に入る。

 近年、戸建て住宅の販売不振から、相続などにおいて物件をそのまま売却できず、デベロッパーが買い取るケースが増えている。こうした物件は建物を解体した上で、敷地を2~3分割し、一戸あたりの面積を極限まで抑制した狭小住宅として再販売される。都心近くに住める最後のチャンスとして、こうした物件に人気が集中しているのだ。

「狭小戸建て住宅」の販売拡大は続く
 都心近くの狭小住宅を得意とする不動産会社によると、契約件数はコロナ以後、急激に伸びており、5月は前月比で43%、6月は52%増だという。同社の物件を購入する層は30代が多く、世帯年収は700~900万円程度だという。同社の顧客層は先ほどから筆者が示している消費者像とかなりの部分で一致している。

 こうした流れを俯瞰的に見た場合、新築マンションの建設ペースの大幅な鈍化によって、マンション市場は伸び悩むが、価格はあまり下がらない可能性が高い(コロナ危機でサプライチェーンの見直しが進んでおり、資材価格がさらに上がる可能性もある)。マンションが高嶺の花になってしまった今、しばらくは割安な狭小戸建て住宅の販売が大きく伸びることになるだろう。

 従来、一戸しか建っていなかった敷地を分割して販売することには、様々な弊害があるのも事実だ。都心から少し離れた住宅地は、現時点でも木造建築の比率が高いことなどから、大地震が発生した際、火災が多発するリスクが指摘されている。さらに家が細分化され、世帯数(人口)が増えると、災害に対する耐性は低くならざるを得ない。

 また、日本の木造住宅は欧米とは異なり、半永久的に使える仕様にはなっておらず、40年もすると使いものにならなくなる。今、新築物件に入居した世帯も、30~40年が経過すれば、老夫婦だけとなり、いずれは相続といった問題に直面する。こうした時に、土地が細切れになり、半ば朽ち果てた上物だけが残された物件というのは、売却などの処理が極めて難しくなる。

 社会全体としては、いろいろな課題があるのも事実だが、今のうちに住宅を確保しておかなければ、老後の生活が不安という消費者の気持ちを否定することはできない。こうした狭小住宅の開発はさらに進む可能性が高く、行政としては災害対策などで何らかの施策を検討する必要に迫られるかもしれない。

 もっとも、この状況がいつまで続くのかは何ともいえない。その理由は、テレワークの普及によってオフィスビル需要が減少することで、近い将来、都心に大量のマンションが供給される可能性が見えてきたからである。テレワークの進展でオフィスの一部を解約する企業が増えており、競争力のない小さなオフィスビルにはいずれ空室が目立つようになる。こうした物件は、たいていの場合、マンションに建て替えられるので、都心の住戸数は大幅に増え、その分だけ価格も下がるだろう。

 確かにコロナ危機は不動産市場を大きく変えつつあるが、一部のメディアが喧伝しているような、単純な地方や郊外への分散という形にはならない可能性が高い。住宅の取得について検討している人は、総合的な視野での検討が必要だ。





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