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「年収900万円でも購入は不可」狂騰する東京のマンション相場に翻弄される“不動産難民”の悲鳴
東京23区の新築マンション平均価格は1億3000万円に到達。リクルート調べによると、’24年に首都圏で新築マンションを契約した人の平均世帯年収は1213万円と、’08年以降最高を更新した。もはや、都内に持ち家は完全に“高値の花”。SUUMOの調査では、元・東京23区在住者の約40%が23区外で家を買っており、東京離れに拍車がかかっている状況が起きている。
では賃貸なら東京にしがみつけるかというと、そうでもない。ファミリー向け平均家賃(50~70平米)は’25年11月、初めて25万円を突破。新築も中古も賃貸すらも狂騰する不動産市況に取り残されて身動きが取れなくなり、東京から離れたくても離れられないという人すらいるのだ。
◆タイミングを逸し賃貸貧乏街道まっしぐら
IT系企業に勤める会社員の相沢拓己さん(仮名・48歳)の日課は、不動産サイトを開くことだという。しかし、買うためではない。
「15年前に購入を検討した物件が今、いくらになっているか確認するんです。あの時から、価格は倍以上。見るたびに無理してでも買っておけば……って後悔するんですけど、どうしても気になっちゃって。もはや自傷行為ですよ、完全に」
年収750万円、妻(42歳)がパート勤務で年収150万円ほど。世帯年収は900万円と決して貧乏というわけではない。現在は、荻窪の2LDK・55平米を月19万円で借りている。
「買いたかった物件は6000万円。駅近で立地は抜群、65平米の3LDKでした。私は当時年収600万の単身で頭金もあり、頑張れば届く範囲。でも当時交際中だった彼女と『結婚したら決めよう』って後回しに。今思えばそれが間違いでした。入籍して子供ができて、さあそろそろって思ったときには、もう手が届かない額に。会社の同期はだいたいこの時期に家を買っていて、みな倍以上になったとホクホクです。あの時買っていなかった、それだけでこんな差を生むなんて……」
さらに、賃貸の更新で大家から家賃10%の値上げを通告された。
「近所で同じ広さを借り直そうと思ったら25万はします。追い出されても困るから、賃上げは飲まざるをえなかった。世帯で900万あっても、都内で家を買えないどころか、近場では賃貸の住み替えすらできない。いっそ東京から出ればいいんでしょうけど、妻も今のパートを続けられなくなるし、子供のこともある。次の更新でさらなる値上げを言われないか、憂鬱で仕方ありません……」
不動産市場には“掲載価格”と“反響価格”のギャップも広がっている。賃貸でも中古でも、サイトに出る募集価格は高騰を続ける一方、実際に問い合わせが入る水準はそれより低い。売り手の強気と生活者の支払い能力のズレが広がっているのだ。
◆狭い家で我慢するしか選択肢がない
そう話すのは、メーカーの営業職をしている戸部昭彦さん(仮名・50歳)だ。相沢さんとは違い、世田谷区の2LDK・60平米の持ち家に妻と子供2人の4人で暮らしている。
「’19年、今の家を4800万円で購入しました。変動金利0.5%、月々の支払いは管理費込みで月13万くらい。子供一人の頃は十分な広さだったんですよ。賃貸より断然お得だねって妻と話して。でも、二人目ができるとどうしても手狭で。学習机を置く場所がないからソファを撤去したり。引っ越しも視野に入れていました」
そうして昨年、物件の現在評価額を調べてみたという。
「5800万円を超えていたんですよ。妻に言ったら『1000万も儲かったの!?』って目を丸くして。僕も最初はすごいと思っていたんですが、ちゃんと計算したら全然そんなことなかった。残債がまだ4000万くらいあるから、売っても手残り1500万ちょっと。それを頭金にして同じエリアの3LDKを買おうとしても、築古ですら7000万以上するし、金利も当時から1.5倍くらいになっている。月の支払いが15万以上になるんです。儲かったはずなのに、負担は増えていた」
戸部さんが計算したところ、家を売って得するには3000万円台の物件を探すしかなかったという。
「調べたら、向ヶ丘遊園まで行けば3LDKが3000万円台で買えた。でも、妻に話したら『そこ神奈川じゃん。上の子、転校になるね』と言われて会話が終わりました。子供も横で聞いてて、『転校したくない』って泣き出して……。職場まで30分以上通勤時間が増えるし、子供の学区も変わるし、車も必要になるから駐車場代で月2〜;3万かかる。結局、トータルの出費は今より増える。狭いのを我慢してでも、ここに住み続けるしかないって現実にぶつかりました」
◆「すべてはアベノミクスで変わった」
暴騰を続ける不動産価格に、変わらない賃金。相沢さんや戸部さんはそのあおりを受け、都落ちすらできずにもはや東京に幽閉されている。なぜこのような事態に陥ってしまったのか。不動産市況に詳しい小原正徳氏は、現状をこう言い切った。
「現在の23区では買い負け・借り負けが同時に発生してしまっている。売って賃貸で様子を見ようとしたら価格がさらに上がって戻れなくなった、買い直そうとしたら審査が通らなかった、という事態が実際に起きています。残念ながら解決策はないというのが正直なところで、今を耐えるか、何らかの犠牲を払ってでも東京を損切りするかの二択です」
どうしてこんなことになってしまったのか。変質の起点を’13年に置く。
「アベノミクスの金融緩和でマンションが値上がりし続ける金融商品になりました。投資家にとって魅力的な商品になる一方で、実需の人間には手が届かなくなる一方に。そこに’21年以降の建築費高騰が重なって、デベロッパーが庶民向けでは採算が取れなくなってしまい、全国各地でマンション事業から撤退するデベロッパーが続出しています。今は供給を月500戸程度に絞り、世界中の富裕層500人を見つければ完売するという金融商品的なビジネスモデルに変わっている」
事実、リクルート調べでは購入動機のトップが「資産として有利だから」(36・7%)になり、「住みたいから」を逆転した。象徴的なのが50年ローンだ。
「35年では審査が通らない人が続出したから返済期間を延ばした。完済時は80歳前後。本来は借りる力のない層に無理やり貸しているだけで、バブルの延命策に過ぎません。住宅が国民の権利ではなく、金融商品に変質してしまったことが、東京に住む人々を苦しめているわけです」
「あのとき買っていれば」という後悔は、市況が上がるたびに積み重なっていく。持っていても、持っていなくても、出口が見えない。この構造が変わる兆しは、今のところ見当たらない。



